今週のお題「寿司」
まだ梅雨明けはしていませんが、夕立や雷雨が続き、気分はもうすっかり夏の気分です。
先日、夕方に奥さんを迎えに行ったのですが、途中からゴロゴロと雷が鳴りだしましたが、何とか保ってくれと思う願いに応じて雨はポツポツで、奥さんを回収して家に向かいました。
家まであと5分のところで雨が降り始めました。
「このまま保ってくれ!」
日頃の行いがよいせいか、家が見えてきたところで豪雨でカミナリどおんでした。
車を降りて家に入るまでの数秒で、パンツまで濡れるほど降られました。
上下左右前後ろすべてから雨を浴びてしまい、服をぜんぶ着替える羽目になりました。
やはり日頃の行いがよいと違うものです。
子どものころ
私が子どものころは回転寿司などはなかったので、握り寿司は寿司屋で食べるしかありませんでした。
いつもは出前を取って寿司を食べていたのですが、小学生の時に、何を考えたのかわかりませんが、父が家族でお寿司屋に連れて行ってくれました。
カウンターに家族4人座って食べました。
初めは好きな玉子やエビを注文して食べていたのですが、子どものこととて、カウンターの上にあるお品書きの「時価」と書かれているウニやうずらの卵を注文し始めたのです。
特においしいとも感じなかったのですが、あとで母親に「おとうさん、顔が固まっていたよ」と言われました。
その本当の意味がわかったのは、大学生になった頃でした。
その時、会計がいくらになったのかを私は知りません。
熟れ鮨(なれずし)
母方の実家の地域では、発酵鮨である「熟れ鮨」をふつうに食べます。
うちの父親はそれが大嫌いで、台所に置いてあるだけでものすごく不機嫌になりますが、母がとても好きなので、たまに食卓に載りました。
匂いはほぼ生ごみで、私もほんの小さなかけらをかじってみたことがありますが、すぐに吐き出してしまうレベルで無理でした。
結婚して間もないころ、私と奥さんが実家を訪れた時に、何の不幸かこの熟れ鮨が家にあったのです。
父はすごくイヤそうな顔をしていたのですが、母がたまに起こる「熟れ鮨食べたい」症候群に憑りつかれてしまい、古い友人に頼んで送ってもらったらしく、あの独特な香りが家の中に漂っていました。
私「熟れ鮨がなぜここに?」
母「高校の時の友だちに送ってもらったのよ」
父「(苦虫をかみつぶしたような顔で)どうしても食べたくなったらしい」
私の奥さん「それ、何ですか?」
母「(嬉々として)私の実家のほうでよく食べる、熟れ鮨(なれずし)っていうお寿司でね、すごくおいしくて、時々どうしても食べたくなるのよ」
父「(小さな声で)熟れ鮨は寿司じゃない」
母「ちょっと食べてみる?」
父、私「(断れ! 匂いでわかるだろ。素人の手に負えるものじゃない!)」
私の奥さん「いただきます」
母「(とんでもなく嬉しそうに)どうぞ!」
父、私「ああー!」心の声が実声となってあふれ出てしまいました。
奥さんは熟れ鮨のお皿を受け取って口に入れました。
父、私「ああ、そんなに一気に食べたら!」
奥さんは眉間にしわを寄せ、おでこに凶悪なスジを立てながら、ごくりと呑み込んだのです。
父、私「おお…(ぼうぜん)」
母「(うれしそうに)どう?」
私の奥さん「少し匂いが独特ですね」
父、私「少しじゃないだろ!」
その出来事のあと、父が私にしみじみと、
「いい奥さんをもらったな。あそこまで自分をコントロールできるのはすごいとしかいいようがない」
母もうきうきしていたし、あの熟れ鮨1個で、私の奥さんは義両親の心をがっちりとつかんだようでした。
あとでこっそり聞いたら、
「死ぬかと思ったけど出すわけにもいかないし、呑み込めば終わると思って呑み込んだわよ。でもね、終わらないのね。私の身体の中からあの匂いが上がってきて、次の日になっても消えなかったわよ」
「すごいな…」
「ご両親の前で出すよりは、死んだほうがましと思ったからね」
うちの奥さんは、やっぱりすごい人でした。