浅田次郎さんが、またとんでもないお話をプレゼントしてくださいました。
「母の待つ里」という物語です。
価格:825円 |
浅田次郎さんの本は、シェエラザードや蒼穹の昴シリーズ、天切松闇がたりシリーズなど、とても好きな本が多いのですが、この作品も大好きになりました。
お話は、母の待つ故郷に帰る3人の様子が描かれています。
一つ目のお話で、久しぶりのふるさとに帰る男性の話として読んでいた私は、ラスト3ページでゾッとさせられることになりました。
「これはホラーか?」というのがわたしの感想です。
浅田次郎さんは時々何気ないお話の中にホラーやオカルトをぶちこんでくるので要注意なのです。
しかし、そのホラーやオカルト要素が最終的にとんでもなくこちらの涙腺をゆるめてくれるので、物語るのが上手なのでしょう。
ひとつめのお話で気を引き締めて読み進めると、この状況の全体像が見えてきます。
確かに既にどこかで実施されていてもおかしくないお話。
でも同時に、ぜったいに実現しないだろうお話。
それが存在することを、こちらに信じさせてくる語り込みは、さすが浅田次郎さんです。
おおぜいの人の、それぞれが持っているしがらみと希望をやさしく織り込みながら話は続きます。
訪れる側だけでなく、受け入れる側の揺れも織り交ぜて、どこに着地するのか見えません。
ホラーと言いましたが、読み進むにつれて、この世界にもっと居たいと思うようになり、ページの残数が気になってきます。
昔話と人々の気持ちを織り交ぜて終わる話は、やはりホラーではなく、日本の風土に根差したファンタジーでした。
切なくてうれしいこのお話は、やはり次の言葉で終わらせるべきでしょう。
どんどはれ。
(どんどはれというのは、岩手の方言で、昔語りの終わりにつける言葉です。これでおしまい、めでたしめでたし、という意味の言葉です)
このお話を読んで、ふるさとというものが何であるか考えてしまいました。
家や場所も確かにふるさとですが、いちばん大きなものは、やはり人なのかもしれません。
この作品がドラマ化されると聞き、期待と不安がともにあります。
NHK作成なので、きちんと作ってくれると思うのですが、解釈の不一致が主な不安要件です。
それでも人の解釈は知りたいもので、見られる機会を楽しみに待ちたいと思います。