リチャード・ブローティガンの「西瓜糖の日々」を読みました。
読み始めて、すぐに「しまった」と思いました。
これはあれです、読むときの年齢が感じるおもしろさに大きく影響してしまうタイプの本です。
とても美しくて、でもその後ろに仄暗い、嫌なものが横たわっている世界の中で、少しずつ静かな暮らしのほうに嫌なものが沁みだしてきています。
不安があるのに今の世界から踏み出したくない、崩壊しつつあるモラトリアムに引っかかっている人間たちが、なかば透き通って歩き回っています。
高校や大学に在学している時にみれば、かなり内奥の方までささってきたでしょう。
今の私は、嫌なものが横たわっている側の世界から、美しく透き通った世界を遠く見ている立場なので、その世界への愛着や憧憬を遠く眺めることしかできません。
せめて、20代のうちに読んでいれば入り込めたでしょう。
価格:858円 |
本の中には、そのような特性を持っている本がいくつかあります。
何が響くかは人によって違いますが、私にとって学生時代のモラトリアムの時期に読んでおいてよかった本をご紹介します。
星の王子様
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あまりにも有名なので知らない人の方が少ないのではないかと思いますが、この本を完読している人はどれくらいいるのでしょうか。
読んでいると説教くさくて、いわゆる教養小説かなと思って読んだのですが、気が付くと何度も手に取って読んでいます。
キツネがどう見ても狐に見えないとか、登場人物で好感が持てるのはキツネとバラと点灯士だなあとか、ヒツジの口輪のことを考えています。
そして何度も見ているうちに、最後の1ページが胸に迫るようになってきてしまいました。
これを小さいころに読んでよかったと感じます。
ライ麦畑でつかまえて
ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス) [ ジェローム・デーヴィド・サリンジャー ] 価格:968円 |
このタイトルは、キャッチーさを追求するために、ちょっと捻じ曲げられています。
素直に翻訳すると、「ライ麦畑の捕獲人(見張人)」くらいです。
子どもから大人になる時の、モラトリアム真っ只中の人なら感じるものがあるでしょう。
どこを見ていいのかもわからない時に、自分が何になりたいのか、何になれるのか考えるのは必要なことなのかもしれません。
カモメのジョナサン
価格:1,650円 |
カモメのジョナサンも不思議なお話です。
群れの中で、他者と馴染めない一羽のカモメが、自分の居場所を探していくお話です。
飛ぶことを、まるで求道者のように追及して、普通のカモメたちが想像もしない高みに向かいます。
これは新しい時代に作られた神話なのかもしれません。
狭き門
価格:572円 |
切ない切ない大ロマンスなのですが、キリスト教的なストイックさですれ違わされていく二人が歯がゆくてなりませんでした。
わけのわからない理由で一緒になれなかったアリサとジェロームですが、ジェロームの最後のセリフは私の心を今でも打ちます。
このために読み返すのも何なので、うろ覚えなままで申し訳ありません。
「日々の生活がその上を過ぎ去っていっても、その気持ちが風化しないとお思いになって?」
「忘れたくないと思っているんだ」
純愛ってこういうものだよね…
お話はとても好きなのですが、私はすれ違っていく二人が嫌でイヤでたまらなかったので、彼女と付き合う時に、「たとえ私のことを考えてだとしても、噓はつかないで、必ず本当のことを言ってくれ」を付き合う際の条件としました。
彼女はこれを理解してくれて、幸いなことに今も私の横にいます。
肉体の悪魔
価格:495円 |
これは異性と付き合う時に惹かれあう二人がやってしまう悪いことがたくさん入っており、心に刺さることがたくさん書かれています。
わかってしまう自分も嫌で、でもそうなってしまうのもわかり、読んでいてとても後ろめたくなる本でした。
愛や恋や性欲や支配欲、残酷さなどは実はぜんぶ同じ概念で、そんなに差はないのかもしれないと思えてきます。
取扱注意の本です。
銀河鉄道の夜
価格:473円 |
これも取り扱いが難しい本の一つです。
有名な作品ですが、けっこう長いお話なので、原作を読み通すのは少し大変です。
お話の筋もおもしろいのですが、エピソードの一つ一つが視覚的で、さまざまなイメージを幻視することができます。
手首にあたる燐光をあげる銀河の水や、鳥を押し葉にする鳥捕りや、「いまこそわたれわたり鳥」の信号や、真っ赤な蠍の火と三角標と、誰もいない席に向かって言われる「カムパネルラ、僕たちいっしょに行こうねえ」の言葉など、切なくなるようなイメージがあふれています。
銀河鉄道の中は美しいイメージであふれているのですが、現実世界ではカムパネルラのお父さんの「もう駄目です。落ちてから四十五分たちましたから」という冷酷なセリフが待っています。
何度読んでも吸い込まれてしまうお話です。
好きな詩人や短歌
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少し羞ずかしいところもありますが、若いうちに好きな詩をいくつか持っておくと、そののちに生きていくときに助けてくれることが何度もあります。
私は教科書で知った中原中也や宮沢賢治、宮柊二に与謝野晶子、北原白秋からアポリネールなどの詩をいくつか心の中に飾ってあります。
若いときに感じた気持ちは、おとなになっても褪せること残ってゆくので、どうしようもない事態に巻き込まれたときに、救いになってくれることもあります。
緊急事態に備えて、備蓄しておくといいでしょう。
一期一会な読書体験
ほかにもたくさん、忘れられない本はありますが、いくつになって読んでもおもしろい本の方が圧倒的に多い中、若いときでなければそのよさを魂に刻み込めない本は少数ですがあります。
本は読めるときに読んでおくといいです。
面倒に感じても、あとできっと役に立ちます。