ツイッターでいつも楽しみにしてみていた宇佐江みつこさんの「ミュージアムの女」がようやく本になりました。
本になることはないだろうなとあきらめていたのですが、うれしい限りです。
大きな事件は起こりません。
なにせ主人公が、美術館の展示室で日がな一日そこを訪れるお客さんを見守り続ける監視係のお姉さんなのです。
とても静かなのに豊かな日々がつづられていて、美術館を訪れたくなってしまいます。
最後に美術館を訪れたのは、長野県の美術館でした。
山を描いた版画がNHKの日曜美術館のアートシーンで紹介されていて、奥さんが見たいといったのではるばる行ってきました。
静かな美術館を二人で歩き回り、たくさんの作品に触れた時間は、実に豊かでした。
美術品を維持するという大役を任せられながら、彼女は気負うことなくミューズの一員としての義務を静かに果たしています。
読んでいて気持ちがいいのは、その強い覚悟が伝わってくるからです。
お客さんの動きで少しハラハラする時も、一緒に来た親以上にマナーをわきまえている子を見る時も、彼女の視線は優しく、そして厳しくあります。
浮世と少し離れた空間で美術を守り、訪れる人々にその素晴らしさを伝え続ける彼女にあこがれて、そんな暮らしをしてみたくなります。
そうなっても、結局欲の深い私は世俗に戻ってしまうのでしょう。
それでもそんな楽園があることを知っているだけで、どこか安心して世俗にまみれていられる気がします。
いちばん好きなエピソードは、高校生の時に初めて自分の勤めることになる美術館を訪れた時のお話です。
こんな運命があるなら、人生は捨てたものではありません。
この本は、帯も変形切り抜きがほどこされており、作る人たちがかけた愛情が見て取れます。
この本を手にして、それほど遠くない日に岐阜県美術館を訪れてみようと思います。
ルドンはおもしろいし。
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