ずいぶん長いこと積んでおいた、宮部みゆきさんの「この世の春」を読了したのでご紹介します。
宮部みゆきさんのお話は、「模倣犯」のように読むのがつらいものもあるので、なかなか手が出なかったのですが、覚悟を決めて読み始めました。
最初の数ページを読んで、「あ、これは好みだ」と感じて、全3巻を2日で読み終えてしまいました。
時代劇ですが、一人ひとりのキャラクターがとても感情移入しやすく、するするとお話に入り込めます。
するすると入り込んだ先は、ホラー風味の強いサスペンスミステリーで、途中で止めるのが難しいほど没入してしまいます。
伝奇ホラーになるのかと思うと、ヒロインの各務多紀(かがみたき)の物事をしっかり見つめて流されることのない物事を解釈する力と、理詰めでものを考える医師の白田がミステリーらしく道筋をぐいぐいと変えていきます。
人の世がそうであるように、不思議な物事を全否定するのでもなく、理屈で説明できることがすべてでもなく、お話は進みます。
かなり悲惨でおぞましいところもあるお話なのに、不思議と読後感が悪くないのは、ヒロインの多紀と、その多紀を守るためについてきている頑固でまじめないとこの田島半十郎のまっすぐさのせいだと思います。
周りのキャラクターもそれぞれ魅力的なのですが、お話のトーンをひときわ明るくしているのは、武士という立場に誇りを持ち、忠誠心が高く、頭のよさよりも武技に秀でて、まじめで不器用な半十郎です。
その半十郎が精神的に追い詰められても、自分の信念を曲げずに進もうとする強さはとても明るい。
ともすれば暗いところに引きずられそうになる周りの人間が、それに打たれて明るい方に目を向けていくのがこのお話の救いです。
個人的にラストの多紀の処遇はあまり好きではありませんが、これはこれでいいとも感じます。
何となく、続きがありそうな感じもするので、気長に待とうと思います。