きょう御紹介するのは、平庫ワカさんの「マイ・ブロークン・マリコ」です。
これはとても重いお話でした。でも、重いのになぜか目の前が大きく開ける感じがして、読んだ後の今の気持ちはなぜか前向きです。
お話の中には、明るいお話なのに読んだ後に絶望感が残るものと、暗いお話なのに希望を感じられるものがあります。マイ・ブロークン・マリコは後者でした。
子どものころからずっと虐待を受け続けていた友人が亡くなります。そのニュースをラーメン屋で見た主人公は、自分がしてこなかったことを後悔して、なんとかできることを見つけ出します。
それをしても何も変わらないし、戻りません。
本人にもわからない道行きの中で、マリコを抱えたトモヨは絶望します。
もっとずっと前にすればよかったこと、できたはずのこと。
やらなかった自分をかばい続けて、聞こえるはずのないマリコの声を聴こうとします。
だから、できることはやらなければいけないんです。できるうちに。
私はこれと同じ気持ちを、中学生のころ、アンドレ・ジイドの「狭き門」を読んだ後に感じました。
やればよかったのに。
やれることは山ほどあったのに。
やらなかった過去は変わりません。
やれるその時にやらなかったことは、永遠に取り返しがつかないのです。
やらなくちゃ。できるうちに。
それ以来、私は家族とも友人とも恋人とも、その時にできることはできるだけやるようになりました。
今の奥さんは、私の独自の、一風変わった人付き合いの仕方を見て、私と一緒に行ってみたいと思ったそうです。
ダメなこともたくさんあるけれど、奥さんは私といてよかったと言ってくれます。
少なくとも、私は奥さんをアリサにしなくて済んだようです。
おまけのお話が「できたはずの時」そのものです。えぐられます。
私が最後に残す本の一冊です。教えられた教義と、人のあるべき姿と、何を優先させるか、何ができるかを何度も何度も 考えました。
人を幸せにしたければ、すればいい。
必死に働きたければ働けばいい。
何もかも捨ててどこかに行くのならそうすればいい。
でも、絶対に考えなければいけないのは、それが本当に、ほんとうに自分の望んでいることであるかどうかです。これだけは何度でも何度でも自分に問いかけなければなりません。