今回は小林 泰三さんの「クララ殺し」です。
「アリス殺し」に続く、著者の童話シリーズの2作目です。
前作の不思議の国の事件と同様、おかしなロジックが正しい法則として成立している不条理世界で、不可能殺人が起こります。
小林泰三さんのお話は、デビュー作の「玩具修理者」からそうなのですが、独自の世界設定に入り込むまでが大変です。
なんとなくでいいので世界観を理解できれば、あとは急流にもまれる木の葉のように、その世界の条理にのっとってかき回してもらえます。
とてもメタな小説で、引用先のお話を読んでいると、知らない場合の100倍くらいは楽しめます。
狂言回しの蜥蜴のビルは、前回の「アリス殺し」からの継続参加で、相変わらずの滑りっぷりを見せてくれます。
登場人物の名前を聞いただけで、ドイツの幻想文学の大家であるE.T.A.ホフマンの作品群を思い出します。その通り、ホフマンの創りだした宇宙の中で、私たちは翻弄されることになります。
ホフマンの創る世界の中に不思議の国の住人であるビルが紛れ込むことで、何者かの企んだ完全殺人が破綻していきますが、物語の中にいると自分がどこにいるのかもわからなくなってきます。
最後まで油断できない、「現実って何だっけ?」 と言いたくなるような世界にどっぷりと浸りきれます。
本の最後にこの世界を形造る小説の小解題があります。それぞれの登場人物がどんな作品のどういう登場人物かを知ることで、もう一歩深い裏が見えてきますので、見てみてください。
元になっている小説は、ドイツらしい陰鬱な怪奇譚ばかりです。それが小林泰三さんの作風に合っていて、なんとも奇怪な世界を垣間見させてくれます。こちらもとてもおもしろいので、機会があったら読んでみることをお勧めします。
砂男 ホフマン作
後味の悪い怪奇幻想小説です。現実と非現実が入り交じり、救えるはずの命をこぼしてしまう気持ち悪さをたっぷりと感じられます。
タイトルにあるクララは、車イスなどの小道具でアルプスの少女ハイジのクララと見せかけて、実は砂男に出てくるクララです。
くるみ割り人形とネズミの王様 ホフマン作
オペラにもなっている有名なお話です。クリスマスプレゼントのくるみ割り人形を中心に、夢と現実が混ざり合って、自分がどこにいるのか曖昧になってきます。
ホフマンが可愛がっている友人の娘のために考えたお話でが元になっており、不思議の国のアリスと似た成り立ちを持っています。
マドモワゼル・ド・スキュデリ
ホフマンらしくない、明晰な話のように見えて、実はやはりホフマンらしいお話です。
黄金の壺
蛇に恋してしまう青年の物語です。ハッピーエンドで、ホフマンの中では私の好きな一篇です。