今週のお題「好きな小説」
重度の活字中毒者で、好きな小説を上げようとしたら、あっという間に百冊を越えようとしたので止めました。
好きな小説語りはしたいので、それはおいおいするとして、今回は最近特に胸に刺さった紅玉いづきさんの小説をご紹介させていただきます。
サーカス少女たちの物語
- 永遠をちょうだい
あなたの心、それだけが、私の住まう場所。
―――サーカスへようこそ。
東京の湾岸地区が大災害にあって壊滅し、その跡地にできたカジノを中心とする歓楽街の中にある、少女のみで構成されたサーカスがお話の舞台です。
これはSFということになりますが、そんなことは気にせずに、物語に入り込んでいくだけで、とても深いところまで沈み込んでゆけます。
サーカス団のメンバーは、ブランコ乗りのサン=テグジュペリ、歌姫のアンデルセン、パントマイムのチャペック、猛獣使いのカフカ、ナイフ投げのクリスティ、フラフープのヘッセ、ジャグリングのエンデ、そしてサーカス団長のシェイクスピア。
耳になつかしい作家たちの名前を戴いた演者たちが、その名にふさわしく振る舞い、戦って、自分の居場所を創りあげていきます。
それぞれが自分だけのやり方で居るべき場所を創りあげていくさまは圧巻です。
この本は、光と影の2冊に分かれて提供されています。
今宵、嘘つきたちは光の幕をあげる/ブランコ乗りのサン=テグジュペリ
今宵、嘘つきたちは光の幕をあげる (ポプラ文庫ピュアフル 362) [ 紅玉 いづき ] 価格:836円 |
サーカス少女たちの物語。光の章は現在の演者たちが紡ぎ上げます。
主演は三名。
ブランコ乗りのサン=テグジュペリ、猛獣使いのカフカと歌姫アンデルセンです。
それぞれが自分の芸にのめり込んでおり、その場であるサーカスを第一に考えているのはみんな同じですが、まったく違うアプローチでそれを実現しようとしています。
カフカとアンデルセンには、舞台を退いたチャペックが大きな影響を与えており、それぞれの道行きを運命づけています。
アンデルセンは自分の信じるサーカスを実現するために、絶対者である団長のシェイクスピアと対決することになります。
三名の中でも、特にアンデルセンの存在感はすさまじいものがあります。
そして最終章、自分に課した呪いを成就するサン=テグジュペリが示してくれるパワーは忘れることができません。
今宵、嘘つきたちは影の幕をあげる
今宵、嘘つきたちは影の幕をあげる (ポプラ文庫ピュアフル 363) [ 紅玉 いづき ] 価格:836円 |
サーカス少女たちの物語。影の章は、少女サーカス創生時代のお話になります。
光の章で名前だけ出てきた初代のメンバーたちが、手探りで自分たちの居場所を創りあげていく姿が描かれています。
光の章で悪役のように扱われていた初代団長のシェイクスピアがどれだけこのサーカス団を愛しているか。
どんな悪いことに手を染めても、このサーカス団を維持していこうとするのがどこから来ているのか垣間見えます。
悪い人がいるわけではなく、それぞれがベストを目指していっているだけで、愛しているところは変わりません。
それが描ききられているのが、このシリーズのすごいところです。
少女たちは自分の思いを実現するために、世間的な善悪など気にする必要のないことを知っています。
そんな力がひしひしと感じられるお話でした。