今週のお題「まつり」
夏はいちばん好きな季節です。
子どものころは無限に思われた夏休みの、区切りの一つが夏祭りでした。
夏の夜は本当に真っ暗で、カブトムシ取りに街燈巡りをすることにも親はいい顔をしませんでした。
それが許されて、場合によっては親も一緒に夏の夜の道を歩けるのがお祭りの夜でした。
いつもと違って、夜なのに道を歩いている人たちがちらほらと見えて、その人たちもどこかいつもの近所の人たちには見えなくて、ドキドキしながら歩いていくうちに、遠くにいろいろな色の光が見えてきます。
いつもは人のいない神社へつながる道の両側に、一夜限りのお店が開いています。
どう見ても、この世の風景とは思えないところへ、子どもたちは吸い込まれていきます。
お面に綿菓子、りんご飴にたこ焼き、ハッカ飴に焼きそば、金魚すくいにスーパーボールすくい、少し胡散くさいくじ引きに型抜き。
チョコバナナやベビーカステラも捨てがたいものがあります。
いつもは存在しない華やかな世界が拡がっています。
でも、お店の後ろは真っ暗な闇。
夜店が明るい分、何も見えない暗い世界です。
昼間はあそこに林があったはず。でも、今はとてもそうだとは思えません。
この夜店のまわりだけが人に許された空間で、黒い世界は別の理屈で決められたものたちの領分のように感じられます。
それでも、明るい夜店の道はまだ安全地帯です。
ちょっとだけうそ寒いものを首筋に感じながら、非日常の時間を楽しみ、ほとんどの場合は無事にうちに帰りつくことができます。
翌日、テーブルの上の水風船や、バケツの中の赤い金魚を見て、昨日のお祭りが夢でなかったことがわかります。
念のため、お祭りのあった神社まで行って見ますが、夜店はきれいに片づけられ、何もなかったようです。
神社のまわりの森も、明るい光の中でいつも通り静かに微睡んでいます。
お祭りというものはそういうものです。
子どものころは、そんなふうに年に何回か異界に近づく機会がありました。
おとなになった今は、すべて知ったような気で、異界の気配を感じることもなく、お祭りを行事の一つとして見てしまっています。
それでも時々は不思議な気配を感じとって、二の腕に鳥肌を立ててしまったりすることもあるのです。
ただ、とても残念なことに、最近の気温上昇は尋常ではありません。
夜になっても30℃を超える日も多く、せっかくのお祭りの夜に、外に出るのがとても億劫になってしまっているのです。