今週のお題「冷たい食べ物」
冷蔵庫があることは当たり前になって、冷たい食べ物はハレのものではなくなってしまいました。
冷蔵庫がない昔でも、井戸水の冷たさは味わえましたし、湧き水から引いた水で冷やしたスイカやキュウリは格別の味でした。
暑い夏には、それで十分満足できるものだったのです。
でも、冷やす手段などない夏の山の中にも、冷たい食べ物がありました。
子どもの時に、父親と一緒に山歩きをしていたことがありました。
夏らしく、とても暑かったことを覚えています。
山の中で父が木の上を見上げて言いました。
「あ、あれ、おいしいんだよ」
見てみても、果物らしいものは見つかりません。
父は木に絡みついているツタを伝って上り、紫色のかたまりを取りました。
「これは甘いんだぞ」
よく見ると、太った紫色のサツマイモのようなものは、中心が裂けていて、なかにカエルの卵のようなものが見えます。
かなり気持ち悪くて、私はとても食べる気になれませんでした。
食べようとしない私を見て、父は中の半透明の白いものをすくい取って、口に入れました。
「あっ!」
食べながら、父は私に紫色のかたまりを差し出します。
食べなければならないようです。
私は覚悟を決めて、少しだけその白いものをすくい、口に入れました。
「…甘い」
それが私が初めてアケビを食べた時でした。
「種は食べられないから出せよ」
残りも口に入れて、初めてのアケビを味わいました。
暑い山の中にあるのに、その果肉はほのかに冷たく、とても上品な甘さでした。
冷たい湧き水で冷やしたものを味わっているようでした。
あの冷たさは、どこから来ていたのでしょう。
その後、山でアケビを見つけたことはありません。
お店で売っているアケビを買ったこともありますが、なぜだかあの時に味わったものとは違うような気がしてしまいます。
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