今週のお題「ラジオ」
テレビの黎明期からずっとともに歩んできた世代の私ですが、テレビはいつも私の外側にあるもので、鑑賞する対象でした。
それにひきかえ、ラジオは私にとっては内側に直接囁きかけてくるメディアでした。
中学生のころ、夜に勉強しているときはいつもラジオを聴いていた気がします。
DJの声や音楽は、集中するにつれて意識から消えていき、次に聴こえてくるのは集中が切れた時です。
この時に得た経験が、集中力を出すときのベースの思考フォーマットになっています。
周りに人が大勢いる場所でも、とんでもない騒音が響いている場所でも、どこにいる時でも集中するとすべての音が消えて、異常な集中力で目前の課題に取り組むことができるのです。
ドライブの時や勉強するとき、創作しているときなどにラジオをかけることがよくあります。
音楽をかけることもあります。
この二つは空間を埋めるという意味では似た効果がありますが、大きな違いがあります。
ラジオはこの世界でリアルタイムで起きていることとつながっています。
音楽は、過去に録音されたものを聴いているので、その中にある間は現在の世界から切り離されています。
過去の残滓に情緒をかき乱してほしい時には音楽に浸りきるのがとても効果的なのですが、自分が現在とつながらない状態になってしまっているので、長い時間聴き続けていると世界に取り残されたような気分になってしまうことがあります。
そんな時はラジオに切り替えて、今の世界に帰還して安堵したりするのです。
テレビはリアルタイムよりも、既に作られた番組を流していることも多いのですが、ラジオは今まさにしゃべっていることが配信されていることが多いので、テレビよりもリアルタイムの時間の流れに乗せてもらっている感じがします。
ラジオは現実と個人の時間を、つかの間でもつなげてくれるメディアなのです。
父が入院しているときに、目も悪くなっていてテレビが見られなくなり、ラジオを持ち込んで聴いていました。
父が亡くなる少し前、「最近おもしろいラジオ番組はある?」と聞いたら、
「もう聞きたくなくなった」と言われました。
その時に、父にとってこの世が動いていく様子は興味の対象ではなくなってしまったんだと悟り、身の内で絶望を感じました。
ラジオのDJの語りかけが、今宵も多くの方の生きる力を高めていってくれていることに感謝し、多くの方がこの世への興味を持ち続けてくれることを祈っています。
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