本日ご紹介する一冊は、たらちねジョンさんの「海が走るエンドロール」の2巻です。
海が走るエンドロール 2 (ボニータ・コミックス) [ たらちねジョン ] 価格:660円 |
このお話のいちばんのポイントは、美大に入った学生の主人公が、夫と死別した65歳を越えた女性であるという点でしょう。
うみ子さんは、映画館で美大の生徒である海君と出会い、自分でも知らなかった創作したいという思いに気づき、海君と同じ大学に通うという第一歩を踏み出します。
65歳を越えて新たに大学で学ぶという、なかなか難しい道を選んでいるのに、うみ子さんは自分のことや環境を言い訳にしません。
自分ができないところ、ダメなところがわかっても、だからやめると考えず、できることを探してやろうとします。
うみ子さんを見ていると、何かがうまくいかないとき、ネガティブな考え方をしてしまうときに、どうすればその先にたどり着くことができるかのヒントが見えてきます。
一方、感情が表に出にくく、人を拒んでいるように見える海くんも、今っぽい子とみられながら、必死で自分のやり方を追っており、自分を変えていこうとしています。
本来なら会うこともない二人が出会うことで、二人の進んでいく世界が変容していきます。
二人の所属する美大という環境の特徴を表しているのは、多様性を受け入れる力の強さです。
これはものを創るという命題が最優先されるためで、この感覚はわかります。
年齢や性、能力や求めるものが異なることで区別されることはなく、それぞれがやりたいことをやって、到達点を目指していきます。
うみ子さんとほかの生徒たちとは、祖母と孫くらいの年齢差がありますが、誰もそれを気にしないで、うみ子さんの創作への欲求について理解しようとし、それを自分の創作に活かせないかと考えます。
さまざまな差は、同じ目的に向かっている者どうしにとってはほとんど意味を持たないか、あるいは自分に足りないものを与えてくれる機会としてとらえます。
美大に限らず、大学は選別を経て、自分に近い能力を持った人間が集まっています。
大学のいちばんすばらしい点は、周りの理解度が高いので、ゼミでもサークルでも、自分の能力でできる最大を実現するチャンスを得られることです。
ここで得る経験は、高校まででは得ることができないし、社会人になっても得ることができません。
まさにこの期間だけのものであり、ここで得られた経験は死ぬまでなくなりません。
何かを得たいという強い気持ちがあるなら、いくつになっても大学を目指すことにマイナスはありません。
「波に引っ張られる」というのは、自分の能力を最大限に発揮できるかもしれないという予感です。
それが自分を強く引っ張って、今はまだ知らない世界へ連れて行ってくれるのです。
このお話、これからの展開が楽しみです。
1巻のご紹介はこちらです。