JP Road mirage - Sumomo Toxin / すもも毒素 ネタバレ要素多数につき、お気をつけください

食費より書籍代の高い、重度の活字中毒者です。本やマンガを読んで感じたことをネタバレありで綴っていきます。誰かが本を手に取るきっかけになればうれしいです。

雨の日はとっぷりと追想にふけって

今週のお題「雨の日の過ごし方」

 

雨は好きです。

でも、晴れも曇りも好きなので、お得な性格なのでしょう。

もちろん雪や槍も好きです。非日常だし。

 

雨の日は、まず耳から入り込んできます。

雨が木の葉っぱや地面に落ちる音。

車が水を巻き上げる音。

雨どいを流れ落ちる水の音。

「ああ、雨だ」と夢うつつのうちに沁み込んできます。

すべてが洗われて、緑の葉がより色濃く、

アスファルトは黒く、

花は雨のしずくの重みで顔を伏せて。

 

雨はなつかしい記憶を運んできます。

長靴でじゃぶじゃぶと水の溜まった道を歩いていた記憶。

授業中に、窓の外で降り続く雨を頬杖をついて眺めていた記憶。

茶店で大事な人を待っているときに降っていた明るい雨の記憶。

土砂降りの雨の中戻ってきたびしょ濡れの子どものまとう雨の匂いの記憶。

寝床の中で目が覚める前に、たくさんの記憶がよみがえり、また消えていきます。

 

たくさんの記憶ですっかり重くなった身体を無理やり引き起こして、カーテンを開けて、空から落ちてくる雨滴を確認します。

 

とくにやることのない雨の朝は、

そのまま窓の外を降る雨を眺めながら、

追憶を追いかけます。

 

自分自身の記憶ではない記憶までが私の記憶に混ざり込んできて、自我があやふやな中で、降り続ける雨を眺め続けます。

これは彼女の記憶。

これは昔知っていた人の記憶。

これは子どもの記憶。

そして、これは誰の記憶だろう。

 

立ち上がり、外に出てゆく準備をします。

玄関を開けて、傘を差し、歩き出します。

すぐに雨の中に包み込まれて、傘に落ちる雨粒がリズムを刻みます。

いつもの世界がどこかに消えてしまって、昔よく知っていた世界にシフトしているように思えます。

雨の中を歩き続けているうちに、自分が消えてしまうような気になってしまいます。

 

雨はいつも、少しだけ違う世界を見せてくれるから大好きなのです。