きょうは一日中、雨が降ったり止んだりで気温も高くならなかったので、久しぶりにあることを行いました。
普通の家庭ではあまりやらないと思うのですが、奥さんのヘアカットです。
子どもが小さい時に、床屋に行ってずっと椅子に座っているのを子どもが嫌がるので、うちでカットできないかと思って始めました。
もちろん、整髪に関しては経験も技術もまったくありません。とりあえず、私は器用貧乏だとだけ言っておきましょう。
何でもある程度は出来てしまうのですが、それを極めるということはなかなかできにくい人間なのです。面倒くさいのです。
荒ぶる学生生活
学生のころ、人に頭をいじられるのが嫌いだったので、自分で自分の髪を切っていました。使っていたのはサボというスイス生まれらしいツール1個だけです。
これで前から後ろまでザクザクと切って整えていました。
大学在学中はずっとこれで通していましたが、女性にも男性にも、就職活動中にもおかしいと言われたことはなかったので、たぶんそれなりにうまくいっていたのでしょう。
子どものヘアカット担当に
その経験があったので、子どもの頭を自分で切ってやろうという蛮勇が奮えたのだろうと思います。
そうはいっても、小さな子供の髪は柔らかくて、引っ張ったら痛がりますから、サボでは難しそうでした。
とりあえず散髪用のハサミを買ってみましたが、髪が細くて柔らかいので、まだハサミでは切れません。
家電量販店でパックンカットという商品を見つけて買ってみました。現物があるはずなんですが、見つけられなかったので後継機種の商品写真を載せておきます。
これはホチキスのような構造で、切りたい部分の髪をはさむだけでサクッと切れてしまい、とても具合よく使えました。
小学校に上がるくらいからこれでは整えられなくなり、もう少し本格的なバリカン式のものを買いました。
これプラス散髪ばさみで、高校まで私が子どもたちの髪を切っていました。たまに床屋に行くこともありましたが、「あまり変わらないし、父の方がいい感じになる」などというので、家庭散髪を続けていました。
ラスボス登場
子どもが中学生くらいのころに、私が子供の髪を切っているのを見て、奥さんが遠慮がちに言ってきました。
「あのさ、わたしの髪も切ってくれないかな」
「は? 正気か? 女の命である髪を俺に切れと?」
「美容室に行ってるんだけど、どこもあまりピンと来なくて。子どもの様子を見てると何だかイケそうな気がして」
「…あると思います、なわけないでしょ。知らないよ、冥府魔道に落ちても」
「冥府魔道、楽しそうだからさ、ねえ、やってみようよ」
「やるのは主に俺だが」
「やられるのはわたしさ。さあ、トライしてみようよ」
...結果について、それなりに気に入ったらしく、冥府魔道に落ちることもなく、私は奥さんの専属美容師に指名されることになりました。
もちろんその後も時々美容室に行ったりしているのですが、「やっぱりあなたの方がいい」などと正気を疑うような発言をするので、専属美容師の座は他に明け渡してはいません。
家族だから
子どもの整髪は、子どもが大学に行っても続けていたのですが、さすがにそれほどしばしば帰れないので、次第に床屋か美容室にシフトしていき、専属から外されました。
髪は見た目の印象を大きく左右するパーツです。それを任せてくれるほど信頼されていた事実は、とてもうれしいものです。
私だって家族だからできたのだし、多少ラフになっても許してくれるから安心して続けることができたのです。
そういう家族になれたことは本当にうれしい限りです。
こんなシンプルなハサミ一本が、家族の間を少しだけ密につないでくれています。
もう40年以上に渡って使い続けているのですが、切れ味は少しも衰えません。なんだか、とてもうれしいです。
深い理解と共感のもたらす癒しの時間
きょうも奥さん の髪を切りながら、しょうもない話をし、少しでもきれいに見えるように切る時間はとても満ち足りています。
私が一所懸命彼女がきれいに見えるように考えて髪を切り、彼女はそれをよく知っています。
これほど深い癒しの時間はなかなか得ようとしても得られるものではないでしょう。
今となっては、できる間はずっとこの深い交流の時間を続けていくつもりです。
いずれ冥府魔道に落ちることになっても、まあそれはそれでいいんじゃないかな、なんて思ったりします。