今週のお題「自慢の一着」
服にはあまりこだわりがないのですが、忘れられない服が一つあります。
高校のころに父に買ってきてもらった中国服です。
はるか香港から買ってきてもらった
父が仕事で香港に行くことになったので、ブルース・リーが好きだった若造は、無邪気にお願いしたのです。
「中国服、買えたら買ってきて」
「買えたらな」
父は買ってきてくれました。
広げてみると、インディゴブルーのデニム地でした。ブルース・リーの着ているような木綿の黒いものではなかったので、少しがっかりしながらも、縦襟の布ボタンを見て、よしよしと思いながら聞きました。
「どこで買えたの?」
「タクシーで売っているところへ連れて行ってもらって買ってきた」
「大変じゃん」
「まあ、大丈夫だ」
忸怩たること
その当時はその程度に感謝したのですが、自分が社会人になって海外出張をするようになって、英語ができなかった父はどれほどがんばって買ってきてくれたのだろうと思い当たりました。
英語がある程度喋れる私でも、いろいろ面倒な思いをしているのに、父はどうやって買ってきてくれたのだろう。
寡黙で真面目な父は、こちらがお願いしたことを、黙々と行ってくれていました。
生意気な若造だった私は父と喧嘩を何回もしています。それでも、父を嫌いになることは一度もありませんでした。父の考え方が偏っていたり、間違ったところがあったとしても、父が私のことを真剣に考えてくれていることは疑ったことはなかったからです。
いつもそばにあった
父の買ってきた中国服を、高校時代は受験勉強をしながら着て、大学にも持って行って部屋着にしていつも着ており、社会人になった時に実家に置いていたら、いつの間にかなくなってしまいました。
私の身体に馴染んで、リラックスする時にいつも着ていた中国服は、もう着ることができません。
父はもう5年ほど前に彼岸に渡ってしまいました。
夜になってリラックスしていると、今でも時々、あの中国服を着たいなと思うことがあります。
あの服は、間違いなく私の一番楽しかった日々に強く結びついているのです。