きょう御紹介するのは、5月9日に出たばかりの支倉凍砂さんの「新説 狼と香辛料 狼と羊皮紙 Ⅴ」です。
支倉凍砂さんと言えば、「狼と香辛料」で、ホロとロレンスのとても魅力的な道行きを描いてくれました。「マグダラで眠れ」のシリーズや「少女は書架の海で眠る」、「World End Economica」などもとても面白かったので、いずれご紹介します。
「狼と羊皮紙」は、ホロとロレンスの娘と、ホロとロレンスの同行者で、聖職者希望の若者であるコルの旅を追います。
聖職者として独り立ちすることを目指して、ホロとロレンスの経営する温泉宿を旅だったコルに、ミューリは身を隠して無理やりついてきてしまいます。
世間では教会と王国が対立して、教会側が3年前から聖務を停止するという行為に出ています。そんな中で、コルは自分の信ずる信仰の道を歩こうとするのが狼と羊皮紙の経糸です。
そのコルに絡む奥さん志望のミューリと、途中で出会う人たちと人ならざる者たちとの邂逅がお話の緯糸になり、編み上げられていきます。
大きな問題をいくつも解決して、薄明の枢機卿という二つ名を得たコルが、それに辟易しながらもその名に恥じない行動をとっていきます。
5巻では、異教徒との戦いがなくなり、教会の実働戦力であった騎士団が、自分たちの誇りを損なうことなく活動を続けるにはどうしたらよいかという難題がつきつけられます。
コルはミューリや庇護者であるウィンフィール王国のハイランド卿とともに、その難問に立ち向かいます。
この複雑なお話をきれいにまとめあげて、深い満足感に浸らせてくれる支倉さんはやはりすごいです。
狼と香辛料のホロとロレンスは、ロレンスの商人としての活動が一番面白いのですが、長い時間のうちにいろいろと失ってきたホロが時おり溢れさせる絶望感と、それを正面から受け止めるロレンスの、二人の間のロマンスが大きな位置を占めていました。
コルとミューリでは、ミューリに陰になる過去がない分、ミューリのキャラクターが弱く、コルの活動の方がお話全体を支配しているように見えます。
それはそれでいいのですが、ミューリにもっと深い感情を得る機会があるともっと面白くなるのではないかと感じています。
最新刊では、ミューリが月を狩る熊の秘密に肉薄するようなエピソードもあり、これからの進展が気になります。
1巻では、コルは聖典を誰でも読めるように翻訳する仕事にいそしみますが、教会にはめられて投獄されてしまいます。コルはどうやって身の証を立てるのでしょうか。
コルとミューリは黒聖母を崇めているとして異端の疑いをかけられた海賊たちのもとへ赴き、真実を探ります。ミューリがとんでもない危機に陥ってしまいます。
コルとミューリは高利貸しをしているという噂の聖堂の事件を調べているうちに、とんでもない危険に巻き込まれます。人ならざる者の別天地の話も出てきて、ミューリの心は揺れ動きます。
狼と香辛料ファンなら忘れられない女商人のエーブが登場します。王国の徴税人が教会に押しかけ、王国と教会の対立を激化させ、あわや戦争という事態に、コルは何をすることができるのでしょうか。