今週のお題「激レア体験」
子どものころから山に近い場所で暮らすことが多かったので、 変わったものを見る機会がありました。特に生き物はいろいろなものがあり、山にはこんなものもいるんだなと思っていました。
でも、今考えてみるとやはりどこか少しだけおかしい気もしたりします。
※少しグロテスクな内容を含みます。画像はないのでご安心を。
墓石についていた大きな生き物
これは比較的、人里に近いところのお話です。
お盆に私の父方の親戚の家を訪れたのですが、もうお昼近くになっていて、墓参りに間に合いませんでした。
初めて奥さんと一緒にその親せきの家を訪れたので、お墓の場所を案内しがてら、お参りに行きました。
お墓の場所は親戚の家から20分くらい歩いたところで、山の中に入る道を上っていきます。太い杉の木がたくさん生えていて、昼間でも薄暗いところに、このあたりの家のお墓がまとまっています。
お参りを済ませて見回すと、その日の朝に供えられた供物がけっこう食い荒らされています。カラスか何かだと思います。
ひとつのお墓の切ったスイカが、赤いところが溶けたようになっているのを見て、ナメクジかなと思いました。案の定、ナメクジの這ったあとがそのスイカから伸びています。目で追っていくと、その跡はお墓の上の方に伸びています。
お墓の正面の、文字が書いてある真上にそれはありました。薄い茶褐色の、30センチくらいあるもの。椎か何かの大きな葉が落ちてきて、引っかかっているのかと思いましたが、近寄って見ると、ナメクジだとわかりました、たぶん山ナメクジです。丸々と太っているのは、お墓の供物を食べているからでしょうか。
奥さんも気づいて目を見開いています。
「このあたりのナメクジはこんなに大きいの?」
「ヤマナメクジだと思う。わたしもこんなに大きいのは初めてだ」
ほかにもいるかもしれないと思うと、いや、間違いなくいるでしょうから、山を下りました。日の当たる道路に出てほっとしました。
今でも、墓石の真ん中に貼りついている姿を思い出します。
無数の黒い蛇
小学生の頃の話ですが、親の仕事の都合で、生まれた魚沼に戻ってきたころの話です。
秋の、まだ陽射しが暖かいころ、親と弟と散歩に行きました。家からほど近い河原の土手の道を歩くコースです。
「おや」
父親が声をあげました。何かと思ったら、蛇の抜け殻です。2メートルくらいある大きなもので、傷みがまったくなく、まだ抜けたばかりのようです。
「財布に入れておこう」と私にその抜け殻を渡しました。家まで持って帰れというつもりでしょう。なんで私が、と思いながら、持ちやすくするために折りたたもうとしたり丸めたりしながらついていきました。
「お、スカンポだ。スカンポの中にはヘビが入っていることがあるから気をつけて」
スカンポは山菜の一種で、酸っぱい味がします。中が空洞になっているんですが、入り口がないから多分ウソでしょう。親というものはなぜ時々、いやけっこうしょっちゅうこういうウソをつくのでしょう。そういえば私もつきましたね。
ぽかぽかと暖かい中を歩くうち、大きな川の土手に着きました。しばらく川風に吹かれながら土手の上を歩いていくと、また父が土手の下を見て言いました。
「うわ、こりゃ」
「そんな季節ね」
母が返します。私が覗き込むと、土手の下に置かれている治水用の蛇籠(じゃかご)のすき間から、真っ黒い蛇が何十匹、何百匹も出たり入ったりしています。
100メートル以上にわたって並べられている、見渡す限りの蛇籠から出たり入ったりする蛇の群れは、この後何度も見る夢のモチーフになりました。
黒いので青大将だと思うのですが、 サイズは小さめなので、まだ幼齢の蛇なのかもしれません。
山の近くでは、人のすぐそばにこんなものが普通に在ったりします。
大雪山の鹿
結婚した後、会社で勤続賞をもらった時に、2週間くらい北海道を車で回ったことがあります。
大雪山では、ケーブルカーの入り口近くに宿をとったのですが、遅くなって暗い中、山道を上っていきました。北海道の道路はどこも広くてきれいなのですが、ここも関東の山道よりはるかにきれいでした。
調子よく上って行くうちに、闇の中にヘッドライトの灯りで見える両側の林の中が気になってきました。
「あ」
「どうしたの」奥さんが心配そうに聞いてきます。
「横の林の中を見て」
「え?… あ。ああっ!?」
林の中に光るものがたくさんあり、それが目だとわかった途端に数十匹、いや百匹以上の鹿がこちらを向いて立っているのがわかりました。
なぜ舗装された道のすぐ横に、あんなに並んで立っているのでしょうか。熊とかも出るんじゃないかと思ってひやひやしながら峠道を上って行くと、車が何台か止まっているところがありました。大雪山名物の串イモ屋です。
串イモはおいしく、ほかの車があることに安堵しつつ、なんとか宿にたどり着きました。
川魚を出すという宿の夕食は、明らかに冷凍のコロッケでした。なんでやねん! 串イモはおいしかったのに…
野生動物が人間のいるところのすぐ近くで共存しているのは、どこの山でも同じなのですね。
山の里の不思議なお話
うちの父は、山の人以外入らないような、けもの道しかないような山に入ることも多く、伝奇話でしか聞かないような話も実際に経験していました。
同僚の方が野槌に襲われて寝込んでしまったり。
行く手にあった木の幹を乗り越えたら、それがうねりだして、大蛇だったことがわかったり。
大雨が続いて大水が出たので、同僚の方が奥さんと子どもを残して保全に出て来ていたら、家族が家ごと流されてしまったり。
ほかにも不思議な話、怖い話がありますので、また機会があったらお話しします。