今回は、「四畳半神話大系」、「夜は短し歩けよ乙女」、「ペンギンハイウェイ」などを書かれている 森見 登美彦さんの「夜行」です。
かなりダークな雰囲気のお話で、舞台は京都の鞍馬から始まり、尾道、奥飛騨、津軽、天竜峡、そして鞍馬に戻ってきます。
登場人物の一人一人がそれぞれの旅先での経験を語るのですが、いずれも抜け出ることのできない悪夢を見ているような感覚にとらわれてしまいます。
私はそのどの話より、「尾道、奥飛騨、津軽、天竜峡。それらはとくに何ということもない平凡な旅の思い出だった。」という文章を見た時にざわっとしました。
世界はすべてネガとポジに分かれながら、どちらも現実であるのは、われわれが日常生活でしばしば感じることです。
それをこれほど戦慄させられる物語にまとめあげるのは、尋常でないバランス感覚と、陰画陽画双方をくっきりと見せてくれる著者の力でしょう。
これまでしてきた旅のいくつかでは、確かに陰画の部分を見てきました。陽の世界が好ましいのか、陰の世界に潜みたいのか。自分自身でもわからず、住んでいる世界自体がゆらゆらと揺らぐようなお話でした。
大学生活がぎちぎちに詰まったお話です。自分も経験した不思議な大学生活そのものです。なつかしくてちょっと怖い、少し特殊な空気感が思い出されます。
少し変わった新興住宅地のお話。これは少年時代の独特な世界を思い出させてくれます。